非認知能力

   先日、宗教の授業で6年生の教室に入ると黒板に「あと34日」と書かれたカードが貼られていました。6年生にとって小学校で過ごす日もあとわずかとなりました。来る日をカウントダウンすることは、少し寂しい気持ちになりますが、逆に残りの日を大切にしなければという思いになります。今は感じないかもしれませんが、きっとこの先の人生の中で、この時がとても大切な、愛おしい時間だったと思う時がくると思います。勉強にも遊びにも今という時間を大切にして、毎日を一生懸命過ごしてほしいと願います。

 12月初旬に、奈良県で開催された全国幹部研修会に参加しました。慶應義塾大学教授で教育経済学者である中室牧子先生による講演は「非認知能力」についての興味深いお話でした。グローバル化、情報化、人工知能の発達など急速に変化する現代社会では、今までのスキルでは対応できないようになってきました。これからの社会を生き抜くために注目されたのが「非認知能力」です。「非認知能力」とは積極性や粘り強さ、リーダーシップやモチベーションの高さといった数値では図りにくい能力のことです。反対に「認知能力」とは、学力テストや知能テストで測定し、指標化して「認知」できる能力のことです。

 

 2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームス・ハックマン教授は、ペリー幼稚園で質の高い幼児教育を受けた子どもたちは、受けなかった子どもたちと比較して、成人後により経済的に恵まれ、社会的に安定した生活を送ったことを示した研究を発表しました。

このハックマン教授が行った調査は、「ペリー幼稚園プログラム」といい1962年にアメリカのミシガン州で行われました。貧困地域の幼児教育を受けられない家庭から34歳の未就学児123人を選びました。その中からランダムに選出した58名だけに「質の高い就学前教育」を受けさせました。残りの63名と比較しながら、3歳から11歳までは毎年、その後は14歳、15歳、19歳、27歳、40歳と長期的に追跡調査を行いました。(現在も調査は継続中)

ペリー幼稚園で行われた「質の高い就学前教育」の内容は次の通りでした。

  • 午前中に約2時間半のレッスンで、子ども5,6人に対し、教師1人の少人数制
  • 子どもたちの自発的な遊びの実践
  • 理解度に合わせて、想像力を促すような柔軟な授業
  • 遊びの復習を集団で行うことで、社会的スキルを指導
  • 教師による1時間半の家庭訪問を毎週実施し、親への学びの機会を提供
  • 保護者対象の少人数グループミーティングを毎月実施
  • 幼稚園の教師は修士号以上の学位をもち、児童心理学などの専門家に限定
  • 10月から5月の30週間で実施

 

この調査はもともと子どものIQを上げることが目的で、IQが上がれば将来成功ができると信じて行われた実験だったそうです。しかしこの被験者たちは、小学校3年生の時点で「質の高い就学前教育」を受けなかった子どもたちとのIQの差がなくなってしまったというのです。

この実験は失敗したかに思われましたが、その後の追跡調査で、就学前教育を受けた子どもとそうでなかった子どもに、さまざまな差が出始めました。それは19歳時には学校中退や留年する率、高校の卒業率、27歳と40歳時点では収入や犯罪率や持ち家率、生活保護を受けた割合などで、「質の高い就学前教育」を施されたグループの方が施されなかったグループよりも優れた結果を出しました。

この研究の発表により「非認知能力」が注目されることになりました。学園の幼稚園で行なわれているモンテッソーリ教育も「非認知能力」を伸ばすのに最適と言われています。幼児期が一番伸びる時期ですが、小学生でもまだまだ「非認知能力」を伸ばせる時期です。「意欲」「協調性」「自制心」「やり抜く力」「自己肯定感」といった「非認知能力」を伸ばしていきましょう。これは学校だけでなく、ご家庭との連携が必要です。一人ひとりの子どもへ寄り添い、自分で考え行動する力、友だちと協力して一つのことを成し遂げること、失敗してもまたやればできるという自己効力感、小さな成功を積み重ね自分に自信を持つことができる自己肯定感、これらのことは私たち聖ドミニコ学園の教育で大切にしてきたものと一致しているのです。

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