贈り合う子どもたち

 「白組の皆さん、優勝おめでとう」

 運動会の閉会式で壇上からお祝いを伝えた直後、少しの間を置くこともなく紅組から大きな拍手が沸き起こりました。接戦の末の結果でしたから相当の悔しさがあったでしょうに、子どもたちは爽やかに相手を讃えました。

 そして、「紅組の皆さんもよく頑張りましたね」と続けたところ、やはり同じように白組からすぐさま力強い拍手が広がりました。勝って浮かれるのではなく、感謝の気持ちをごく自然に届けました。こんなふうに相手への思いを表す子どもたちと同じ場にいられることの幸せを感じるひとときでした。

 このやりとりを目の当たりにして、しみじみ思います。私が私でいられるのは、あなたがいてくれるから。私が頑張れるのは、あなたが頑張る姿を見せてくれるから。紅白に分かれて互いに高め合い、讃え合う子どもたちの姿は「神さまの子ども」でした。

 密を避けるレイアウトを考えた結果、全学年の保護者の皆様をお迎えすることができず、6年生のみとさせていただいたこと、心苦しい思いは今も変わりません。今年は練習期間も短く予行演習もない中で、特に5・6年生の係活動は大変だったと思いますが、それぞれの場で下級生を導き、活躍してくれました。

 入場行進のない運動会は初めてです。親子競技もなく、例年の華やかさは求められません。大声を出せず、応援歌も我慢していた子どもたちは、もどかしかったことでしょう。そんな中にあって、1年生の「玉入れ」でのダンスでは、応援席で座っている子も係活動中の高学年も、それぞれの場で一緒に踊ってフィールドにいる一年生を盛り上げました。一人ひとりの思いが仲間の力となって一つになる。そして互いに讃え合う。子どもたちから教わることの多い一日でした。

 この運動会を通して、学習ばかりでなく全体行事をも大切にしなければならないと感じました。コロナ禍にあって、感染拡大の防止がすべてに優先されるのは致し方ないことですが、少しでも、一つでも、子どもたちが互いに分かち合える場を設けていくことは、私たち大人の大事な務めだと改めて思います。

 新型ウイルスの勢いは収まらず、感染者数を見れば東京は高止まりのまま、沈静化したかに思えた大阪や北海道、沖縄などで再び増え始めています。こうして原稿を書いている間にもフランスやドイツでの外出制限、飲食店の休業などが次々と報じられてきます。ヨーロッパをはじめ各国では厳しい措置がさらに広がりそうな気配です。冬の寒さが影響しているのでしょうか。東京もまもなく最低気温が一桁になる日がやってきます。予防する心構えを新たにしてまいりましょう。

 昨年の11月は、教皇フランシスコが来日される話題で喜びにあふれていました。ロザリオの月を終わろうとする今、教皇は人々に呼び掛けています。

 「祈りは人生の不安を和らげるための鎮静剤ではありません」「祈りは自分のために神の助けを願うためだけではなく、むしろ共同体の宝で、全員によって、全員のために祈られるまでに高められるものです」。そして、「ロザリオを一日に何連も唱えても、それで誰かの陰口をたたいているようでは、全くの見せかけになってしまいます」と語られました。

 感染された方に指先を向けるのではなく、心を向けて祈る姿を私たちが子どもたちに見せることができれば、と考えました。でもすでに子どもたちは拍手を贈り合う姿を私たちに見せ、心を届けてくれています。その光をしっかりと受け取りたいと、今思っています。

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