『静かに寄り添う心』
雨に潤う木々の緑がいっそう深まり、季節は静かに初夏へと歩みを進めています。気温の変化に体が追いつかない時期でもありますが、子どもたちは日々の生活リズムを整え、学びに向かう姿勢にも落ち着きが感じられるようになってきました。
昨日5月27日(火)、マリア祭を行いました。全校児童が聖堂に集い、心を一つにして祈りをささげるひととき。朝の静かな空気の中、ロザリオの祈りが子どもたちの声に乗って聖堂に響き渡りました。ロザリオの祈りとは、マリア様を通してイエス様の生涯を黙想しながら、「アヴェ・マリア」や「主の祈り」を繰り返し唱えていく祈りです。ひとつひとつの祈りに、心を静め、他者のために祈るという行為を子どもたちは経験します。
この日、子どもたちは「野ばらのにおう」「あめのきさき」「アヴェ・マリア」などの聖歌を、心をこめて歌いました。子どもたちの美しい歌声は、マリア様への敬意と感謝の表れであり、聖堂の空気をあたたかく包みました。また、百合の花とともに、子どもたちが日々の小さな努力や善行を霊的花束として奉献しました。このひとときは、自分だけでなく誰かのために行動するというキリスト教の精神を感じる貴重な経験となったことと思います。
そんな日々の中で、もうひとつ忘れられない出来事がありました。ある朝、本校の児童が用賀駅からスクールバスの乗降所へ向かう途中で、突然気分が悪くなり、嘔吐してしまいました。通勤の方々も行き交う時間帯。周囲は少し戸惑いを見せる中、ひとりのウーバーイーツの配達員の方がすぐに駆け寄ってくださいました。その方は、児童の様子を見て迷いなく、ご自分の持っていたタオルを2枚取り出し、「使いなさい」とだけ声をかけて差し出してくださったそうです。その後、水を買って戻り、児童に手渡してくださったとのこと。名前も告げず、静かにその場を去っていかれたそうです。私たちはその方に直接お礼を伝えることもできませんでしたが、そのさりげない行動に深く心を動かされました。
このできごとを耳にしたとき、私はイエス様のたとえ話「善きサマリア人」のことを思い出しました。道に倒れていた旅人を見て、多くの人が素通りする中、見知らぬサマリア人だけが手を差し伸べたというあのお話です。忙しい中でも目の前の困っている人に気づき、見返りを求めず、自分のできることを差し出す。現代においても、こうした心は確かに存在しているのだとうれしく思いました。
本校では、日々の教育活動の中で「まなざしを育てる」ことを大切にしています。それは、まわりの人や物ごとに心を向けること、そして困っている人を見過ごさず、そっと手を差し伸べられる心を育てることです。マリア様のように静かで強い愛の心をもって、誰かのために祈り、動くことのできる人に育ってほしいというその願いは、マリア祭の祈りと、この日の出来事と、深くつながっているように思います。
6月は、落ち着いた環境の中で、子どもたちがしっかりと学びを深める大切な時期です。生活のリズムを整えながら、心と体の声にも耳を傾けて、ていねいに日々を重ねてまいりましょう。