50倍幸せですか?

「校長先生、お願いがあります」

1月22日の下校時、降りしきる雪の中で数名の子が声をかけてきました。

「明日は休みにしないでくださいね」

雪国の方々には申し訳なく思いますが、首都圏で暮らす子どもたちにとって雪景色の中で遊ぶことは、大きな喜びです。とはいえ今回は天気予報が伝える量を大きく超えて、休校となった火曜の朝、キャンパス内には20~30センチの雪が積もり、中庭の松の大ぶりな枝が雪の重みで折れるほどの降雪でした。事務局の方や運転手さん、先生方の力で雪かきがなされ、中庭にはかまくらや滑り台なども作られました。

 さまざまに工夫をして発展した東京。しかし、自然の力の前に、その弱さを露呈しました。立体交差や高架の道路は、日常は都市を円滑に機能させますが、林立する高層ビルに陽射しを遮られて、雪解けまでに多くの時間を要しました。ネットが発達して通信販売が増え、コンビニが普及している現代。宅配便を含む物流が止まれば「物」が届かず、人々の暮らしも止まってしまう恐れを感じさせられた降雪でした。

 便利な暮らしを目指して苦労した時代を経て今に至りますが、これを当たり前として暮らすようになると、便利さと「物」が得られなくなった時に、心に不安と不満が生じる。人間の欲望には際限がありません。自然に生かされている謙虚さが失われていないか、自分中心に物事を見ていないか、今回の大雪は考えるきっかけになりました。

 先日、高校1年時にバングラデシュへのスタディツアーに参加した川嶋乃笑(かわしまのえみ)さんの著作「乃笑の笑み」を読みました。現地での最初のオリエンテーションの場でスタッフの方から「あなたはバングラデシュの人より50倍幸せですか?」と問われ、乃笑さんは考え続けます。GDPも石油消費量もおよそ50倍の日本は、それだけ物にあふれ、インフラが整備されています。でも自然にあふれるバングラデシュの子どもたちの輝く笑顔や勉学への意欲を目の当たりにして、自問を続けます。物が溢れ、便利な世の中になって失ったものがあるのではないか、と。「先進国」の大量生産・大量消費・大量廃棄は資源の枯渇と環境の悪化を地球規模で招き、また人々の直接のつながりを薄れさせています。

今年のカレンダーでは、2月14日が「灰の水曜日」。教会では、この日のミサで「あなたは塵であり、塵に還っていくのです」と額に灰で十字の印をつけられます。主イエスの受難を思いながら、祈り・節制・施しを通して、悔い改め、神さまに心を向け直す「四旬節」が、この日から始まります。

大雪で直面した不安と不便を通して自分の都合や欲を自覚し、バングラデシュを含めた世界や身近な周りの人々に目を向け直すことは、神さまに心を向け直す機会となることでしょう。

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