温もりから学ぶ子どもたち

 街に目を向ければ、路地裏で遊ぶ親子や老夫婦の散歩姿など、平時であれば微笑ましいともいえる風景に出会います。しかし、日が経つほどに各地の感染者が増えて未だ収束が見えない現状に、私たちは不安に包まれています。世界中を自由に行き来できるグローバル社会において、同時にウイルスも境目なく広がりました。そんな中、感染者と向き合い、懸命に治療に当たってくださる医療関係者のご苦労を心に留め、幸いにも健康な私たちこそ拡大防止に努めたいものです。
 外出自粛が続く中で、学園でも先生方が最大限の努力を続けています。課題プリントの郵送やウェブの活用などを組み合わせ、まだ教室で出会っていない子どもたち一人ひとりの顔を思い浮かべながら、教材作成に励んでいます。ご家族の皆様にはご負担をおかけしますが、まずはご家庭にある端末で対応可能な範囲の学習を進められるよう、どうぞご協力をお願いいたします。
 いるはずの子どもたちの姿が見えない静かな学校にいると、私には九年前から今も続く福島の風景が重なってしまいます。原発事故による見えない放射線の影響に不安を覚え、避難を強いられて町から人の姿がなくなりました。コミュニティは分断され、将来が見通せない。それでも粘り強く暮らしている福島の方々の、幾重にも重なるご苦労を今改めて感じます。
 九年前の大震災を取材した放送局の方のお話を以前聞きました。「テレビでは現地の様子を伝えようと、リポーターは声を大にして伝えます。でも私が本当に伝えたかったのはその場の静けさ、冷たさ、においでした。テレビという媒体で伝えることの難しさを感じました」とのことでした。その時の現場に立った方だからこそ分かることです。
 病院がぎりぎりの状態である今この時にあの大地震が起きたら、なす術がありません。家で過ごす時間が長くなった今を生かして、ご家庭で防災用品の確認や避難所での待ち合わせ等を話し合っておきましょう。
 他者との関わりの中にあって育つ子どもたちが、友達と関わり合う場を存分に与えられないのは悲しいことです。でも、ご家族の温もりに包まれている今の時間からも子どもたちは一つひとつ学び、吸収しているはずです。
 オンラインでつながることができる有用性と安心感を、上手に生かしたいと思います。一方で、回線を通してではどうしても伝えきれないものもあります。昔も今も子どもたちは、身近な人の関わりに温もりを感じて「安心」を手に入れます。ご家族の励まし、子どもたちと先生方の温もり、キャンパス内に漂う花の香り、給食のにおいや味わい…。ウイルス感染の収束はなかなか見通せませんが、学校という、子どもたちが主役のコミュニティのいち早い再開を心から祈ります。
 聖母月である五月。私たちが「今、在る」ことに感謝し、弱っている方々を思い、「私にできること」を考えて、マリア様の取り成しを願う心で、ともにお祈りいたしましょう

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