ふさわしい助け手に

 まだ街が眠っている早朝。中庭に立っていると、二子玉川の鉄橋を渡る列車が線路の継ぎ目を乗り越えるときの規則正しいリズムが、南からの風に乗って聞こえてきます。春の訪れです。寒暖の差をあまり感じないままに季節が移り、いよいよ年度末を迎えました。

 先日は公開授業にお越しくださり、ありがとうございました。一日目には中高の授業も公開され、お子様の今の姿だけでなく、その「未来の姿」をもご覧いただけたことと思います。一人ひとりがこの一年間の学びをまとめ、進級や卒業に心を向けています。

 その大切な時期に、新型コロナウイルスは忍び寄ってきました。感染の広がり方に驚き、戸惑います。学園でも大勢で行う行事を控えたり、保護者会を取りやめたりと、先が見通せない中での対応で、皆様には大変ご迷惑をおかけしています。ご理解とご協力を感謝しております。特に、卒業謝恩会の中止については、長期にわたりご準備を重ねて下さった委員の皆様の心中を思うと、申し訳ない思いで一杯です。

 この騒動のさなか、マスクを高額で転売して懐を暖める人がいるという話を聞くと、心が寒くなります。一方、心温まる話も聞きました。通勤時の電車内で咳が止まらなくなった男性に他の乗客が白い目を向け始めた時、それに気づいた若い女性が歩み寄り、バッグから自分の予備のマスクを取り出して「どうぞお使いください」と差し出したそうです。蔑まれているその時に、マスクとともに差し出された「優しい救いの手」に、男性はどれほど癒され、励まされたことでしょう。

 灰の水曜日(26日)の朝礼で週番児童が全校に向けて「新型ウイルスの広がりの中で、心ない差別がなくなりますように」と祈りました。罹患した方だけでなく、感染しただけで中傷されている方にも心を留めて祈る児童がいることを誇らしく思いました。

 この日から四旬節が始まりました。これからご復活のお祝いまでの期間、主イエスが霊に導かれて荒れ野で過ごした40日間に倣い、祈りと犠牲と施しを通して、神様に心を向けます。

 楽しみにしていた行事が縮小・中止されるのを受け入れて我慢することは、子どもたちには大きな犠牲ですが、明るく乗り越える姿に勇気づけられます。

 先日お寄せいただいた「おにぎり献金」は、児童の発案でオーストラリア森林火災の被災者や、台風19号被災地などにお送りする予定です。

 子どもたちが祈り、犠牲を受け入れ、施しに参加する。見えないウイルスにひるまず、見えない被災者に心を届ける。その積み重ねを通して子どもたちは「ふさわしい助け手」に成長します。この存在こそが、私たちの光です。

 この一年、子どもたちとともに歩み、学園に寄り添ってくださった皆様に、あらためて心より感謝申し上げます。

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